【特集】鎌倉 三河屋本店、ブランディングの原点。「継承と革新」の裏側にある想いとは

こんにちは、鈴木です。
2026年5月のオープンが迫っている鎌倉 三河屋本店ですが、三河屋本店プロジェクト(保存活用計画の推進)の中で、もう一つ別軸で動いていたことがありました。それは、この場所が持つ120年以上の歴史をどのように紐解き、未来へ繋いでいくのか。その根幹となるブランディングの方向性を考えていました。
その伴走を、私たちDaiyuを創業期から支え、共にブランドを創り上げてきた黒崎 仁氏に依頼しました。

この三河屋本店プロジェクトにどのような想いを込め、デザインに落とし込んだのか。
その原点と裏側に迫るインタビューを公開します。

黒崎氏と設計士との部屋につけるサインの打ち合わせの様子

 

1. 出発点は「ストーリー」を見出せるか
── 鎌倉における三河屋本店の立ち位置

「もし、この参道に三河屋本店のような建物がもっと続いていたら、鎌倉の歴史的価値や景観は今とは違っていたかもしれない」

黒崎氏は当初から、三河屋本店の建物と立地に大きなポテンシャルを感じていたそうです。神社仏閣が多い鎌倉ですが、京都の町家のように「商いの歴史」を感じさせる建物は実はそれほど多くありません。だからこそ、この場所を残す意義は大きいと語ります。

今回のプロジェクトにおけるブランディングの出発点は、「この建物を引き継ぎ、ストーリーを見出すこと」でした。
このプロジェクトはただ新しく生まれ変わることではない。酒屋も継承しながら、そこに新たなレストラン&ウェディングの価値が付与されるということ。100年の時を経てきた建物が持つ「物語」を解釈し、未来への意志を込めてデザインとして具現化する。それこそが、お客様の心に響くものになるはずと考えたのです。

 

2. 「リノベーション」ではなく「継承」である
── 地域を支えてきた「酒屋」という役割への敬意

私たちがこのプロジェクトを手掛けるのは、単に建物を保存するだけでなく、これからも続く酒屋の在り方も引き継ぐことにあります。

黒崎氏は、かつての「酒屋」が果たしていた役割についてこう語ります。
「昔の酒屋は、単にお酒を売るだけの店ではありませんでした。酒だけでなく、味噌や醤油といった生活必需品を供給し、御用聞きとして各家庭を回って地域の人々の暮らしを見守る。そして、お祭りや冠婚葬祭といったハレの日には欠かせないお酒を届ける。つまり、地域の人々の日常と、人生の節目を支える地域のライフラインのような存在だったのです」

店頭に掲げられた「三河屋」の扁額(へんがく)の文字が、建長寺の館長によって書かれたものであるということが、その地域への影響力の大きさを示すエピソードと言えます。
鎌倉を代表する寺院のトップが筆を振るう。それは、この店が一商店を超え、地域の名士として、あるいはコミュニティの中心として、深く信頼され愛されていた証です。

だからこそ今回、酒屋を継承し、さらにはレストラン・ウェディングという新しい業態も加わることでも、より「人の集う場所であること」「人生の節目(ハレの日)を支えること」「地域にも開かれたお店であること」という商いの精神において、一本の筋を通すことができると考えました。
新しくモダンな施設に変えることは簡単です。しかし私たちは、この場所が担ってきた酒屋としての在り方に敬意を持って「継承」することが大切だというところから始めました。

三河屋本店を長きに支えてきた三河屋本店の女将さん

 

「三河屋」の扁額に感動する黒崎氏。

 

3. デザインのテーマは「普遍性」
── 明治の人も、現代の人も読めるデザイン

ビジュアルやロゴの方向性を決める上で、黒崎氏が掲げたのは「普遍性」でした。
「デザインを感じさせない。元々そこにあったかのような違和感のなさ」
奇をてらうのではなく、明治の人が見ても読める文字であり、現代の人が見ても威風堂々とした歴史を感じられ、新たにスタートする意志を感じれるものに。
100年以上の歴史の幅で見ても「その頃からあったよね」と感じられるデザインであれば、過去への敬意と新しさを同時に表現できるのではないか。
建築がそのまま残ることへの「畏怖と尊敬」が、このデザイン方針を決定づけました。

 

4. 「鎌倉 三河屋本店」という名の決意
── なぜ屋号に「鎌倉」を冠したのか

今回、屋号にはあえて「鎌倉」という地名を加えました。
三河屋という屋号は、もともと「三河(愛知県)出身の商人」であることを示しています。発酵文化が発達し、商売に熱心で信用を重んじる三河商人の誇りが込められた名前です。
しかし、現代において「三河屋」と聞くと、国民的アニメの酒屋さんを連想する方も多く、親しみやすさはあるものの、私たちが伝えたい「歴史の重み」や「ブランドの格」とは少しニュアンスが異なってしまう懸念がありました。

この地で120年以上商いを続けてきた実績。
そしてこれから先も、鎌倉の顔として在り続ける覚悟。
それを表現するために、「鎌倉」を冠し、新たな歴史を刻む決意を表しました。

プロジェクトの最初に決めた鎌倉 三河屋本店の屋号とデザインがこちら。

 

5. ディテールに宿る想い

ブランディングは細部にこそ宿ります。黒崎氏と共にこだわった4つのポイントをご紹介します。

屋号「いりやまじゅういち」の継承
店先の暖簾や酒箱に刻まれていたであろう「∧(いりやま)に十と一」の印。これは家紋ではなく、他店と区別するための屋号です。「人は歴史的な背景に惹かれるもの。江戸時代から続く特有の洒落っ気や、商売上の工夫が詰まったこの印は、変えずにそのまま残したい」と考えました。

入山十一のロゴマーク。このマークを継承させていただき、暖簾や引出物袋のデザインに。

 

写真ではなく「絵」での表現
広告ビジュアルに写真ではなく「絵」も用いたのは、私たちが大切にしたい「柔らかさ」や「女性的な感性」を表現するため。写真という今の「事実」だけでは伝えきれないことを、あえて絵にすることで、想像が膨らみ、歴史の重厚感の中に温かみを表現したいと考えました。

鎌倉 三河屋本店のディザーサイト(現在の前のHP)には、当初この絵のみを使用していました。

 

交渉を重ね実現した「暖簾(のれん)」
これから大きな暖簾がお客様を迎えますが、実は条例による看板面積の制限があり、もっと小さな暖簾になる予定でした。
しかし、この建物の持つ広い間口に対し、小さな暖簾ではその魅力が伝わらない。
「段葛を歩く人々の目に映る景色」に新たな要素を付け加えたい。
都市景観課と何度も協議を重ねました。その結果、実現できたのが現在デザインしている日よけ暖簾です。
暖簾の奥に店がある。多くの人が潜在的に求めている「鎌倉らしい景色」になるのではないかと期待しています。また、日よけ暖簾をかけることで、扁額や梁を日差しから守り、より長く保存していきたいという想いも込められています。

当初進めていた暖簾のサイズを元にした完成イメージ。

 

理想の大きさの暖簾サイズに変更した完成イメージ。

 

先人への敬意を込めた「室名」
部屋の名前やサイン計画においても、この建物を守ってきた先人たちへの敬意を込めました。使う人、働く人が、ふとした瞬間にこの場所のルーツに想いを馳せる。そんな「感謝」が循環する空間を目指しています。

どこがどの部屋名になるかは、これから皆様にご案内いたします。

 

「酒屋としての営みを止めず、新しい価値を足していくことは、口で言うほど簡単なことではない」
黒崎氏はそう語ります。

「新しく作り変える方が簡単で、制約も少ない。
それでも、迷いなくその方向性に舵を切ったDaiyuさんは、やっぱりDaiyuさんらしい。
その挑戦の一助になれるように、力になりたい」

そう力強く伝えてくれる黒崎氏の存在が私たちにとってとてもありがたく、いつも背中を押していただきます。

インタビューを終えた黒崎氏

 

今回のブログもいかがでしたでしょうか。

このようなブランディングの想いを胸に、いよいよ2か月後には建物が完成し、5月にはグランドオープンを迎えます。
建物内部が次々と完成されていく様子に、私たちスタッフも感動し、その一つ一つの変化を嬉しく感じています。
8年をかけて建物の完成を迎えるこのプロジェクトも、もう間もなくで正式に皆様にお披露目できます。

4月に入りますと、完成した建物内部をご案内できるようになります。
そのため、多数の会場見学のご予約が予想されますので、結婚式の希望のお日取りの確保や、スタッフとじっくり相談されたい方はぜひお早めにお越しいただけましたら幸いです。
皆様のお越しをお待ちしております。