鎌倉 三河屋本店の庭の設計と職人のこだわり

こんにちは、鎌倉 三河屋本店の鈴木です。

今回の鎌倉 三河屋本店ブログでは、お庭の設計について皆さんにお届けいたします。
もともと三河屋本店には立派な庭があるのですが、この度の耐震補強や安全強化のため、塀の補強が必要となりました。
塀の補強には、塀から1mほど地面を掘り、倒壊防止のための鉄骨などを組み込む必要がありました。
そのため、かなり表情が変わってしまうため、三河屋本店の本来の庭を生かしつつも、新たに庭を設計しなおしました。

庭の設計図を見せながら案内する庭匠の星さんと代表の宮腰

 

「自然」と「安らぎ」、そして縁起の良い庭

今回の庭園作庭にあたり、一つの明確なコンセプトが掲かげられました。

それは
「自然の状態に近く、自然を感じられる安らぎ、そして縁起がよい」です。

ここ鎌倉 三河屋本店の庭は、「自然そのもの」をイメージしています。
鎌倉の地らしい、緑と石と水が調和した空間。客席から庭を望めば肩の力を抜いて深呼吸ができるような、そんな「やすらぐ」贅沢さを追求しました。

完成予定の庭のイメージ(塀の工事が入ったため、ここから修正される可能性があります。)

 

人生という「流れ」を生み出す水と縁起

庭園の入り口近くから奥へと続く「水の流れ」がこの庭のハイライトです。 これは、景観の美しさと共に、人生の旅路も表しています。

その源流となるのが、茨城県桜川市の加藤石材の伝統工芸士が手掛けた『結いの鉄鉢型水鉢』です。
「結い」という名の通り、ご両家の縁、おふたりの縁、鎌倉 三河屋本店にいらっしゃった皆様と結ぶご縁から清らかな水が湧き出し、それがやがて川となり、人生という大海原(小池)へ流れていく。そんなストーリーを描いています。

また、入り口でみなさまをお迎えするのは『宝型灯篭(たからがたとうろう)』です。
頭がひょうたん、その下に打ち出の小槌と巾着袋が彫られた灯篭で、こちらも伝統工芸士の加藤さんが手掛けたもので「みなさまの人生が富や宝に恵まれますように」という職人の願いが込めらています。

設計用のパース。写真の中央上部に水鉢が置かれ、そこから水が溢れ、川の流れを庭で表現しています。
 

結い鉄鉢型水鉢。加藤石材の伝統工芸士が手掛けたもの

 

(左)庭の入り口に設置される宝型灯篭。頭がひょうたん、その下に打ち出の小槌と巾着袋が彫られた灯篭

 

滋賀県まで片道7時間。石の一つ一つが庭の表情を決める

「今の時代、ネットや知りあいの石屋さんからでも、様々な石を取り寄せることができます。
それでも、鎌倉 三河屋本店さんの庭の表情を決める石は納得のいくものを選びたかった。
気づけば車を走らせていました。」
そう語る庭匠の星さん。

安曇川石

庭匠の星さんは庭の敷石に使う石を探すために、滋賀県の安曇川(あどがわ)まで片道7時間かけて車を走らせました。

選んだのは「安曇川石(あどがわいし)」。 通常の川石よりも少し角があり、たいら。通常グレー一色で表情が出にくい川石ですが、様々な色味が混ざっていて、それがぬくもりを感じさせます。まだ庭師業界の中でもほとんど知られていない希少な石材です。
広大な採石プラントの山の中から、6時間かけて一つひとつ手作業で、「鎌倉 三河屋本店に合う表情の石」を選別してくれました。
一度では十分に採掘できなかったため、安曇川まで二度行き、選別してくれたそうです。

数百万個の石の中からとっておきの形だけを見つけ出す

 

一つ一つ形と色味を確認しながら、鎌倉 三河屋本店に合う石を選別

 

6時間かけてトラックに積み込む。一度では十分な量を確保できなかったため二度安曇川へ

 

帰宅後、安曇川石を綺麗に洗浄する

 

東京サガン

池と川の底には、東京都青梅市の山奥で採掘された「東京サガン(砂岩)」を使用し、自然の川底を再現。山石でありながら、砂岩特有の少し摩耗した優しい表情は、自然な川の姿を再現します。

山石は川石と違って角が立っています。その中でも東京サガンは優しい表情をしています

 

どの東京サガンを使いたいか伝え、トラックに積み込んでもらっています

 

浅間石

石積みには北軽井沢の溶岩石「浅間石(あさまいし)」を使いました。黒っぽいこの石は保水性が高く、苔がむすのに適していると言われています。鎌倉は海が近いため、苔がきれいに定着するのは難しいと言われています。そのため、この浅間石を用いることで、黒色のコントラストと、苔の定着を合わせ、庭の美しさを演出するのに期待しています。

軽井沢の黒っぽい溶岩石である浅間石を選定
 

100年前の三河屋本店の水鉢

三河屋本店で使われていた水鉢は掘り起こしてみると想定以上の大きさで、使用場所を変更。
縁側に近い位置に設置し、客席からのぞきやすく、鎌倉 三河屋本店の歴史の深みを感じていただけるように独立して配置することにしました。

三河屋本店の水鉢の発掘。掘ってみたらかなり深さのある水鉢であることが判明

 

水鉢の重量は800㎏にも及ぶそうです

 

客席から見た庭の様子。水鉢の存在が印象的に。

 

庭に四季と奥行きを与える植栽

納得する石が決まったところで、それに合わせて植栽を決めていきます。コンセプトである「自然」「安らぎ」「縁起」を感じていただけるよう、選別しました。

コメツガ(米栂) 庭の背景として奥行きを作っているのが、高さ3mほどのコメツガです。針葉樹ですが、和の庭にもよく馴染む常緑樹。一年を通して緑を絶やさず、冬の庭にも温かみを与えてくれます。

紅葉(モミジ) 三河屋本店には美しい紅葉が要所に使われていました。日本の四季を象徴する紅葉。新緑の爽やかさと、秋の燃えるような美しさ。季節の移ろいと共に、その時々の表情でお客様をお迎えします。

千両(センリョウ)とクチナシ 足元を彩る下草には、赤い実をつける縁起がよい「千両」や、甘い香りの花を咲かせる「クチナシ」を植えました。こちらは庭の工事の工程でどのように表現するかを決めていきます。

苔(コケ) 植物が生えていない地面は、苔で覆っています。ふわりとした緑の絨毯は、見る人の心を落ち着かせ、風情を感じていただけます。

設計用のパース。植栽や石のイメージが伝わってきます。

 

空中庭園と、希少な軽い石

さらに鎌倉 三河屋本店の庭園には、もう一つの見どころがあります。それは、会場の上に箱庭のような小さな「空中庭園」が設けられていることです。これはゲストの方がお待合いされ、その後蔵に移動するときに眺めることができる、その一瞬のために設けられた庭です。

ここは鎌倉 三河屋本店の代名詞でもある紅葉と、石を中心に構成されたシンプルな庭です。
そのシンプルさゆえに、その表情を決める石にもこだわりがあります。

そこには通常では考えられないほど軽い石が使われています。
見た目は巨大で、普通の石であれば1200kgはある重厚な存在感を放っていますが、実はその重さは通常の1/5ほどしかありません。現在は採掘が禁止されており、もう手に入れることができない大変貴重な石を庭匠の星さんが用意してくれました。

この石を用いることで、重量に制限のある場所でも、石本来の力強い存在感を残しつつ、日本庭園ならではの風情を演出することができました。

空中庭園。紅葉の奥には通常1200㎏の大きさの石を配置

 

みなさまの目には触れない「裏側」への想い

最後に、皆様が訪れた際にはほとんど目に入らないかもしれない、しかし私たちにとって非常に大切な場所についてお話しさせてください。 それは、蔵の裏側にある「お稲荷さんの祠(ほこら)へと続くアプローチです。

この場所はご先祖様が代々守り、大切にされてきたところ。
その場所を私たちもしっかり大切にできるよう、もともと三河屋本店の塀として使われていた鎌倉石を再利用し、祠へのアプローチを作成しました。職人の手によって古いモルタルを削り落とし、形を整え直すことで、趣のある柔らかな表情の石畳へと生まれ変わらせました。そして、鳥居の先は「神域」。神様がいらっしゃる神聖な場所には、御影石を使用しました。

御影石は神社などで使われている石材です。それは、御影石が非常に硬く、加工が困難だからだそうです。人が神様のために、これほど硬い石を手間ひまかけて削り、敷石として整える。その膨大な労力と時間こそが、神に対する畏怖の念の表れなのです。手前の鎌倉石の道と、奥の凛とした御影石の空間。この対比にも、庭匠の星さんの深い精神性が宿っています。

そして、鳥居の横にある紅葉を支える石積みにも、鎌倉石を代用しました。通常であればモルタルで固めてしまうところを、あえてモルタルを使わず、石の上段と下段に穴を開け、「かすがい」という鉄の留め具を通して固定しています。これは、「いつかこの庭が作り替えられる時が来ても、この石をまた次の代で使えるように」という、想いを込めたそうです。

人目につかない場所であっても、三河屋本店のご先祖様が代々守り、大切にされていたところ。大切にしてきたものを、私たちも変わらず大切にしたいという想いを庭匠の星さんも汲んでくださり、私たち以上に大切にしてくれていることがありがたいです。

塀から外された鎌倉石。モルタルなどがついている加工前

一つずつノミやハンマーなどを使い表面が綺麗になった鎌倉石

紅葉の石積み。鎌倉石を削りサイズを合わせて

鎌倉石で作られた石畳み。

 

庭の工事は2月から本格的に始まります。星さんの素晴らしいところは、ここまで詳細に設計した上で、工事の工程のなかで柔軟に変化させるところです。
「日本庭園はその繊細さが美しい。設計通りではなく、その表情を都度確認して、よりよい庭へとしていきたい。」と語ってくれています。
ぜひ皆様には鎌倉 三河屋本店の庭も楽しみにしていただけたら幸いです。