伝統工法での土壁の補修工事 国の有形文化財の蔵

こんにちは、鎌倉 三河屋本店の鈴木です。
2026年5月のグランドオープンに向けて、今回は蔵の工事の中でも「土壁の補修」についてご紹介いたします。

 

保存活用工事の全体工程
鎌倉 三河屋本店では、以下の順序で工事を進めています。

1.生かし取り解体(手ばらし解体)
2.基礎を作るために地面を掘る
3.発掘調査(北条時房・顕時邸跡のため)
4.傷んだ部分の補修
5.基礎作りと構造補強
6.内装工事(旧部材を再利用するための調整含む)

鎌倉 三河屋本店の工事はまず蔵から着手し、その後母屋へと進んでいく予定です。
そのため、蔵は全体の中でも先行している工事段階にあり、現在は工程の4番目にあたる「傷んだ部分の補修」の段階です。
今回は蔵の外壁と内壁を中心に手を入れています。

 

小舞という伝統工法を採用
蔵の壁の補修では、「小舞(こまい)」という伝統的な工法を選択しています。

小舞とは、土壁を塗るための土台として、竹を縦横に編み込みをすることです。
小舞へ土を何層にも塗り重ねることで壁の下地を作っていきます。
一般的な現代建築では、石膏ボードの上に土を塗るのが主流ですが、伝統工法である小舞を用いることで以下のような特徴があります。

・壁全体に自然な強度を持たせられる
・竹と土により適度な通気性と調湿性が保たれる
・土が持つ断熱性により、室内環境が安定する

さらに、土が呼吸することで時間とともに馴染み、風合いも美しく変化していくと言われています。

 

蔵の外壁と内壁、それぞれの箇所に適した補修方法
補修箇所は、主に蔵の側面と正面。

側面は、全体的に老朽化が進んでいるため、小舞からすべてやり直す必要がありました。
竹を一本ずつ組み、荒壁土を塗り、乾かし、中塗り、上塗りと丁寧に進めていきます。

正面は、漆喰が大きく剥がれ落ちていたため、全面的に漆喰をはがし、下地の確認からやり直しました。
裏側の漆喰壁はきれいに残っていたことから、正面だけ剥がれ落ちた原因を探ってみると、下地にひび割れや朽ちている箇所があることが分かりました。
そのため、ひび割れの補修だけでなく、小舞からのやりなおしの部分もあり、両方のアプローチで進めていきます。


側面の壁を小舞している様子。こちらは割竹を使用して編み込んでいます

 


正面の壁を小舞している様子。こちらは丸竹をそのまま使用しています

 

側面では、柱を見せる「真壁(しんかべ)」という構法を採用しました。
側面の外側は防火の関係でその上から板金を貼り付ける構造とし、柱に板金を打ち付けるため、「真壁」仕様とする必要がありました。
柱の内側に竹を組み込みことで横竹を固定。
その竹を軸に竹を編んでいきます
内側は柱を残すことで、柱の風合いと土壁のコントラストが蔵の雰囲気を作っていきます。

正面では、その上から漆喰を塗るため、柱を隠す「大壁(おおかべ)」にしています。
竹の外側に切り込みや釘を打ち、そこに横竹を固定し、編み込んでいきます。
約100年前にも同じようにされていた痕跡が残っていました。

 


側面。美しく竹が編み込まれている様子。

 


側面の荒壁土を塗った状態。土壁を乾かすため、この状態で2か月待ちます。

 


側面の外側。荒壁土を塗った状態。柱に切り込みが入っているのが、当時の小舞の名残です。

 


正面の小舞の様子。柱を入れ替えるために一部分を取り除き、小舞からやりなおしました。
 


正面の荒壁土を塗った状態。この上にさらに土壁を塗り、その後漆喰で仕上げます

 

一流の職人が支える工事
今回の壁の補修を手がけてくださっている左官職人は、日本でトップクラスと称される方だそうです。
仕上がりの美しさと丁寧さ、スピード感から、その確かな技術を感じます。

先日ご紹介させていただいた
国の有形文化財の蔵の工事 伝統工法の「仕口」による補修作業
こちらの大工さんもこのような伝統建築を扱う日本を代表する職人さんたちです。

 

なぜ、このような方々がこのプロジェクトに関わってくださっているのか。
その背景には、三河屋本店と建設会社の会長さんとの深いつながりがあります。

「鎌倉を代表する三河屋本店を後世に残したい。」
「協力は惜しまない。なんでも力になりたい。」

そんな風にいつも会長さんが仰っていたそうです。

 

そのため、鎌倉 三河屋本店プロジェクトが始まるとき、会長さんは大変喜んでくださり、難しい許可申請にも力を貸してくださいました。
産官学連携となったこの保存活用計画は、書面には登場していないたくさんの方々の協力がありました。

「三河屋本店を後世につなげたい」

その想いが多くの方の協力を生み、会長さんを通して素晴らしい職人さんが集ってくださり、手をかけてくださっているのだと思います。
沢山の方の想いに支えられ、このプロジェクトが進行していることに感謝です。
ありがとうございます。

いよいよ今月から本格的にブライダルフェアが開催されます。
ご見学にいらした方にもぜひ工事の進捗の様子をご覧いただき、完成を楽しみにしていただけたら嬉しく思います。

 


蔵の入り口にあたる場所。一部分が朽ちているため、そこを取り除き、小舞からやりなおします。

 

修復した後の様子。

 


裏側の漆喰は現在でもきれいに残っています。

 
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設計監理:アラキ+ササキアーキテクツ
構造設計:高橋建築工房、北構造設計事務所、oha
設備設計:ZO設計室
施工:斉藤建設