こんにちは、鎌倉 三河屋本店の鈴木です。
本日は、鎌倉 三河屋本店の象徴ともいえる蔵の工事についてご紹介いたします。
以前ご紹介した
「国の有形文化財の蔵の工事 伝統工法の「仕口」による補修作業」
「伝統工法での土壁の補修工事 国の有形文化財の蔵」
に続き、今回は蔵の側面(北側)における大掛かりな工事のご紹介です。
鎌倉 三河屋本店の蔵の工事のハイライトと言っても過言ではない、職人さんたちの技術の高さと、文化財をよりよくしようとする意気込みを感じる感動の工事工程です。
調査で明らかになった北側の課題
鎌倉 三河屋本店の蔵の北側は長年板で覆われていたため、事前の調査では内部の状態を把握することができませんでした。
いざ板を外してみると、柱や梁のほとんどが腐朽しており、建物の安全性を保つには全面的なやり直しが必要なことが判明。外観からは見えなかった深刻な劣化が、工事を難しくする要因となりました。
古い木造建築は「礎石建て」と呼ばれる工法で、基礎となる石の上に柱を据え置く構造です。柱はただ置かれているのではなく、礎石と噛み合うように加工され、ずれを防いでいました。さらに、柱や梁は「継ぎ手」と呼ばれる木材同士を組み合わせる技術で繋がれており、腐朽している柱や梁を交換するには、天井が落ちてしまうため、天井全体を持ち上げる必要性が出てきました。
しかし天井を持ち上げれば、他の接合部に大きな負荷がかかり、健康な柱や梁まで破損させてしまう危険があります。さらに、土壁が崩れれば再度塗り直す必要が生じ、残せる部分が減ってしまう。工期も費用もかさみ、文化財として残したい部分を削らざるを得ないジレンマを抱えることになりました。
基礎部分になる木材が腐食している様子。
満さんの工夫と継ぎ手の技術
この難題を解決に導いたのが大工の満さんです。
満さんは伝統的な継ぎ手技法を熟知しており、腐朽した部分だけを取り除き、その箇所に新しい木材を「仕口(しぐち)」という伝統的な接合方法を使い、組み込むことを提案してくれました。ただ腐った部材を外すだけでは、天井が落ちてしまう恐れがあるため、下から支えを入れ、重量のかかり方を一つひとつ読み解きながら作業を。結果として、健全な柱や梁は最大限残すことが可能になりました。
天井を持ち上げるような大掛かりな工事にせずとも、必要な箇所だけを修復する方法が実現しました。
天井を下から支え、天井が落ちないように固定。
既存の木材と新しい木材の仕口の様子。柱を支えながら行っていました

梁や柱の既存と新しい部分。仕口の方法が場所によって異なっています
木材の選定と現場加工
もう一つ特筆すべきは、満さんが木材の調達から加工までを一手に担える点です。
通常であれば工場でプレカットされた木材を現場に運び込み、組み立てるのが一般的ですが、今回の蔵のように場所による条件が異なる場合、規格化された木材では不十分。満さんは天竜檜を厳選して仕入れ、現場で加工しながら組み合わせる方法を選びました。
天竜檜は目が細かく、節も少ないため、強度と美観の両立が可能。蔵の既存材との相性も考え、経年変化による色味にも馴染む材を選んでくださいました。新材でありながら浮くことなく、建物全体の調和を崩さないよう工夫されています。
現場でも木材の加工を行い、適切な継ぎ手技法を試みていました
加工された木材の様子。この断面が美しく感じます
梁をはめ込む様子。技術力の高さを感じます
新しい木材は経年変化による色味の変化を邪魔しないように既存の木材の色に合わせて塗装。既存と新しい木材の部分をぜひ皆様にも見ていただきたい
土壁工事について
鎌倉 三河屋本店の蔵の北側は、柱や梁の修復に伴い小舞(土壁の基礎となる部分)を部分的に残すことも可能でした。
しかし、この建物をさらに百年先へ受け継ぐことを考えると、中途半端に残すよりも全面をやり直す方が望ましい。そう判断し、土壁はすべて新たに塗り直すことになりました。
現在、土壁を本格的に扱える職人はごく少数。
今回の工事では、その道のプロフェッショナルである長田さんに左官をお願いしました。竹を組んで小舞をつくり直し、土を三度に分けて塗り重ねる伝統工法。工期の制約もあり、長期化を覚悟していましたが、丁寧かつ迅速な仕事ぶりで予想以上の仕上がりに。
新しい土壁の色味は、既存の壁に合わせて調整。経年変化で生まれた深みはそのまま残し、新旧が自然に溶け合うよう工夫されています。蔵の歴史を感じながら、職人さんの工夫や想いを感じ取っていただけたら嬉しいです。
竹を編んで土壁の土台となる部分(小舞)。すべて手作業で行っています
外側から行っている様子
既存部分の100年前に作られた土壁
経年変化による色合いの変化を計算して新しく作られた土壁
外壁・漆喰の修復
外側の漆喰は風雨の影響を強く受け、特にトロッコのレール沿いは風の通り道となり、劣化が著しい状態でした。漆喰が剥がれ落ち、下地まで割れが生じていたため、下地の割れから補修。部分的には小舞からもやり直し、新たに漆喰を塗り直してもらいました。
一方で、蔵の後面には100年前の漆喰が今も白く美しい姿で残っています。当時の職人さんの手仕事がいかに堅牢であったか、その証を目にすることができます。100年の時を経てもなお輝きを放つ姿には、ただただ感嘆するばかりです。
漆喰を塗る様子
新しくなった美しい漆喰壁
既存部分の100年前に作られた漆喰壁が今も美しく残っています
職人たちの力
北側の大きな劣化により追加工事は避けられませんでしたが、大工事に発展せずに済んだのは斉藤建設さんの尽力があったからこそ。満さんや長田さんといった確かな技術を持つ職人さんを手配し、限られた工期と条件の中で最高の結果を導いてくださいました。
鎌倉 三河屋本店プロジェクトは、文化財を未来へ残すという挑戦。
「計画した以上に仕上げたい。文化財をよりよく磨き上げたい。」そのような職人さんの想いを感じ取るきっかけにもなりました。
職人たちの確かな技術と誠実な仕事が鎌倉 三河屋本店の支えになっています。
現在、ブライダルフェアを開催し、結婚式をご検討している方々へご案内をさせていただいています。
ブライダルフェアにお越しいただいた方には、今回ご紹介している蔵の様子もご案内しています。
鎌倉 三河屋本店での結婚式に興味をお持ちの方は、ぜひブライダルフェアにお越しください。